「うぅ~。見られた……」

俯きいじけた声を漏らす柚花。
ショックを受けたというよりはゲームに負けた時の様に悔しそう。
自らの意思で選んだスリルなのだからそれも当然。
見られていい訳は無いのだが、だからと言って被害者でもないのだから。


「ふぅ。着替えるね」

膝に手をつき疲れたように柚花が立ち上がる。
そして着替えるために試着室の扉を閉じた。

(やっと終わった……)

疲れた柚花を見た途端、どッと私へも疲労が襲い掛かってきた。
心地よさがまったく無い疲労感は私の精神から精気を削いでいく。
予想を越えるダメージだった。
ある程度は柚花のイジワルに免疫がついて来たかと思ったが、それを越えるスピードで小悪魔も成長している。
このまま限度が更新され続けたらどうなってしまうのか?
そんな不安が私の心を過る………はずが私の小悪魔はそれさえも邪魔してきた。

「あの~。ティッシュを持ってませんか?」

見ればまだ水着姿のままの柚花がティッシュが欲しいと声を掛けてきた。

でも何故敬語?
そして何故私と目を合わせない?

それは柚花が私の後ろに立つ男達に声を掛けたから。
突然の視線に驚きを見せる男達。
それもそうだろう。
ここまで柚花の恥態を見せてもらったとはいえ、それはあくまでギャラリーとして。
そのショーが終わったと思ったら舞台上のヒロインから声を掛けられたのだから。

ここは人目を忍んで訪れるアダルトショップ。
だから彼らも互いは見知らぬ赤の他人。
それでも突然の声掛けに、つい他の者と顔を見合せてしまう。

それに柚花の目的がわからない。
もしかしたら、あれだけ黙認しておきながら理不尽にも覗き見をしていたことを咎められるのでは?
でも声はティッシュが欲しいと言っているだけ。

警戒というよりは、どうすれば良いのかわからない男達。
そもそもティッシュを持ち歩いているのかも怪しい。
だから柚花はもう一言を追加した。
男性達にとって魅惑の言葉を。
そして私にとっては地獄の言葉を。

「突然でゴメンナサイ。
床を濡らしちゃったからティッシュを“お借りしたい”なと思って」

男達がざわついた。
確かに今、柚花は“お借りしたい”という言葉を強調した。
ティッシュを借りて濡れたところを拭き、借りた物はキチンと返す。
一見当たり前の事だが、まず濡れる床とは……
それはもちろん柚花の恥液で濡らしてしまった床の事。
糸を引くほど秘部を密着させた足元の事。

そこを拭くためにティッシュを借りたい。
もちろん返すのは汚れたティッシュではなく新しい物。
でも本当にそうなのか?
この場所、この状況、そして柚花の言葉。
誰もが期待するだろう。

「貸したティッシュで床を拭き、恥液がたっぷりと染み込んだティッシュをそのまま返してくれるのでは」と。

迷いで揺れていた男達の中から一人の勇気ある者が声を挙げた。
手にはティッシュを掲げ試着室へと近付いていく。

「ありがとうございます♪ 助かります」

個人として初めて柚花から声をかけられ表情を崩してしまう男性。
しかし進む先に立つ私に気付き固まってしまう。
あの男は間違いなく女性のパートナー。
彼氏なのか夫なのか、そんな人物の前でティッシュを貸しても大丈夫なのかと。

だから私は……この場を終わりにすることも出来るのに男性に道を空けるため一歩後ろに下がって見せた。


柚花の元へと近付いていくのは気の弱そうな可愛らしい男性。
歳は柚花と同じ位だろうか幼い顔は年齢がわかりづらい。
アダルトショップに来るくらいだから彼女はいない可能性が高いが、女性に対して奥手なだけでモテなくはなさそうだった。

「こ、これを使ってください」

試着室の前まで行きポケットティッシュを差し出す男性。
あそこまで柚花に近付けば、果てた身体から発せられる淫靡な香りが彼の鼻にも届いているはず。

柑橘系の香水の香り。
甘く感じる柚花の体臭。
そして恥態の証から漂う果てた雌の匂い。

どれも不快なものでは無い。
だがやはり私以外の男に知られても良いのは香水の香りだけ。
特に最後の1つは絶対に知られてはならないもの。

だから柚花は彼をこの空間に招き込んだ。
私を嫉妬で苦しめるために。

「それでは使わせてもらいますね」

柚花は何を企んでいるのだろうか?
またしても私の想定を越えてしまうのだろうか?
たぶん今回もその場の思い付き。
着替えを行おうとした時に閃いたに違いない。

「あ、でも…………」

(ほら、想定外が始まった)

「拭いている姿を見られたら恥ずかしいので、申し訳ないんですが壁になってもらえますか?」

「えっ? 壁ですか?」

「はい。私の前に立ってもらえれば…………それとも……しゃが んでもらった方が見られないかな?」

(いやいや、それは……)

これから柚花が拭くのは試着室の床。
拭くためには柚花もしゃがまなければならないが、そうすると試着の時の様に危険な姿を皆に晒す事になってしまう。
だから柚花は男性に壁になって欲しいとお願いをしてきた。
でも、彼までしゃがんでしまったら……
試着室の前には2段の階段が置かれている。
そこを上がって入る試着室の床は当然私の立つ床よりも2段分高い。
この中でしゃがむ柚花を、試着室の外の男性が同じくしゃがんで覗いたら?
柚花の足元は外の床より高くなり、男性の視線は低くなる。
結果として男性の目の前には柚花の腰が。
更に柚花がしゃがむという事はフリルでその中を隠せない。
それなのに柚花は……

「ん~。でも試着室は狭いですね。どうやって拭こうかなぁ。
しゃがんで拭くとして、私はそちらを向いた方がいいと思いますか?
それとも背中を向けて拭いた方がいいと思いますか?」

一見真面目そうな男性の事だからしゃがんだとしても柚花に背を向けるのでは?と思っていた──現に彼は柚花の話しに思考がついていけず固まっている。
だが、私の小悪魔はどうやらそれを許さないらしい。
だから拭く時の身体の向きまで聞いてきた。

私の前と後ろ、どちらのしゃがむ姿を見たいか?と。

一人用の試着室は決して広くない。
濡れる床はその真ん中。
そんな狭い空間で床を拭くには、試着室の壁に背を付けるようにしゃがまなければ濡れた床を践んでしまう。
もちろん柚花が横を向いて拭けば見られる心配は無いのだが、そんな選択肢は端からない。
あくまで男性に与えられる選択肢は向かい合うか背を向けるかだけ。
もし柚花と向かい合えばフリルの下の透ける割れ目を覗き見る事が出来るだろう。
しかも視線を割れ目と同じ高さにして。
一方で柚花が背を向けるということは、いくら柚花と男性が共にしゃがんだとしても互いが近すぎるため、フリルの奥は見えないのではないか。
但し二人の距離が近い分、柚花の温もりや妖艶な香りをより強く感じられるかもしれない。

果たして男性はどちらを選ぶのか?
柚花の恥ずかしさを思うのであれば、やはり直接的に身体を晒さない背を向ける方を選ぶのではないか?

「あ、え~と。そ、それでは背中を向けた方が良いかと……」

「わかりました。それではそちらに背中を向けて拭きますね。
では他の人から見えないようにそこへしゃがんで壁になってもらっていいですか?」

「は、はい」

緊張で固まりきった男性が柚花の指差す先──試着室の入り口にしゃがみこむ。
柚花も試着室の入り口側に立つと振り向いて私に話しかけてきた。

「拭いてるところを見られるのは恥ずかしいからここは閉めるね」

そして中途半端にしか試着室の中を隠せないカウンタードアを閉めてしまう。
すると、正面にはしゃがむ男性が、そして上から見下ろそうにもカウンタードアが邪魔して柚花の姿が見えなくなる。
これで柚花は周りの男性へ恥ずかしい姿を晒さずに済む。
ただ問題は私まで試着室で何が行われているのか見えなくなってしまった。

「それではちゃんと私の事を隠して下さいね♪」

柚花が男性に送るのは自分の身体を守って欲しいというお願いの言葉。
でも本来それは私の役目ではないのか?
その上、今は私まで見られてはいけない対象に含まれている。

これから柚花は見ず知らずの男性の目の前でしゃがんでしまうというのに。
そんなことをすれば、ほぼ裸の身体から発せられる体温や匂いが欲情の証として伝わってしまうというのに。

「ん~。やっぱり狭いな。これじゃ拭きにくいぞ」

しゃがんだ柚花の声だけが聞こえる。
身体は男性とカウンタードアが邪魔をして見ることが出来ない。

「ちゃんと拭かないと怒られちゃうから仕方がないよね。
スミマセンが見られないようにもう少し近付いてもらえますか?」

「でも……」

「見られると恥ずかしいのでお願いします」

(ん?)

この流れは。
当初思い描いていた光景が変わろうとしている。
柚花が想定を壊す時、それは小悪魔が舌なめずりをした時。
そんな時は必ず私の想像を越えてくる。
私の精神にとどめを刺すような爆弾を落としてくる。

柚花の姿は見えないが、私は自分を見失わないよう気を沈め精神の真ん中に自分を据える。
そして、どんなことが起きてもパニックを起こさぬよう覚悟を決める。

……どうせ無駄な努力と知りながら。


「それじゃ、こうして……こうなれば拭けるかな?」

「うわっ! ちょっと待ってください。それでは」

「あ~! 私から離れないでください! こんな姿を見られたら恥ずかしいので」

「でも…………」

「出来ればもう少し…………近付いてもらえると」

私の覚悟はこの1、2秒の間に砕け散ってしまった。
小悪魔のイジワルは事前に想像できるようなものではなかった。
それだけ強烈な柚花の攻撃。
体の至るところから力が抜け出て、私は膝から崩れ落ちないよう精神を保つのがやっと。
それ以外の思考は、目にしたあまりの光景にすべて吹き飛び“無”の状態となっている。

それだけのインパクト。
視覚的な衝撃としてはこれ迄で一番精神を抉られた光景かもしれない。

と言っても、すべてが見えている訳ではない。
肝心な所はしゃがむ男性に邪魔をされ見ることは出来ないが、それでも容易に想像がつく。
柚花が何をしているのかを。


床を拭くために柚花は試着室の入り口に立ち男性を近付けた上でその場にしゃがんだ。
この時点で男性から見えるのは精々柚花の背中とフリルで隠れたお尻ぐらいだろうか?
それでも柚花は裸に近い姿を間近で男性に晒している時点で大問題ではあるのだが。

だが、その格好では柚花曰く「やっぱり狭いな。これじゃ拭きにくいぞ」という事らしい。
そして「ちゃんと拭かないと怒られちゃうから仕方がないよね」と、これから行う自分の行為を正当化してしまう。

その結果が……

試着室の入り口から柚花の足が飛び出ている。
それは脛から下。
柚花は狭い試着室の中でも床を拭ける体勢を取るために、足先を試着室の入り口から外に出し女の子座りでお尻をついてしまった。
そして男性は柚花に近付くために柚花の足の間に体を入れ、しかも柚花からもっと近付くようお願いされたため階段に手をつき前屈みになっている。


そんな試着室の光景を見る私と他の男達。
まず目に付くのは試着室から伸びる柚花の足。
そしてその間に体を入れる男性。
あと見えるのはカウンタードアの隙間から見える柚花の背中とペタンと女の子座りで開かれた両方の膝。
それ以外はすべて壁となる男性に遮られている。

そこから想像される柚花の様とは……
たぶん、床を拭くスペースを確保するため足先だけを試着室から出し、お尻ははギリギリ入り口の縁に着いている。
そして女の子座りのまま前屈みになり、床に着いた片方の手で上半身を支えながらもう片方で床を拭く。
でも女の子座りで前屈みになるという事は……
より前に手を着こうとするほど背中を反らす事になり、自然とお尻は突き出す様に持ち上がる。
現に男性とカウンタードアの隙間から見える柚花の背中はだいぶ前に傾いていた。

その想像される光景を男性は間近に。
私からは男性の頭が邪魔になって見る事の出来ない向こう側。
果たして男性が見る光景とは……

背中を反らし持ち上がる様に突き出された柚花のお尻。
女の子座りの様に膝が開いているため、お尻を突き出すと必然的に両側へ向けてぐっと開かれてしまう。

そんなお尻が男性の顔の前。
視線と同じ高さ。
そして息の掛かるほどの近さに。

そこまで近いのだから、もちろん……
お尻に食い込んで見えないはずの水着とはいえな紐も。
その紐ではどうしてもはみ出てしまう恥穴の皺も。
入り口こそ紐で隠されているが、ぱっくりと開いてしまう未発達の割れ目も。
そしてぷっくりと膨らみ、紐の上からでも存在を主張してしまう陰核も。

そのすべてが男性の目の前に。
舌を伸ばせば届いてしまうくらいの近さに。

だからきっと男性には届いている。
発情しきった秘部の熱も。
ドロドロと溢れる粘液の匂いも。

でもそれだけで済むのだろうか?
これだけ男性の顔が秘部のすぐ側にある状況で柚花は平常心で床を拭けるのだろうか?
そんな事はありえない。
しかも今回視姦されているのは秘部だけではない。
見られれば、ただただ恥ずかしいだけの恥穴までお尻を思い切り開いた状態で晒している。

これだけの羞恥に襲われれば、柚花は絶頂に向けて欲望を昂らせてしまう。
その時、柚花の身体は…………

「あの……。やはりこれは」

「ひゃぅっ! お願いしゃべらないで。息がかかっちゃう」

微かに見える柚花の背中がビクンッと反応してしまう。
過敏になっている柚花の秘部は男性が言葉が掛かるだけで身体が跳ねるほどの快楽を生んでしまう。

「でも…………」

困惑する男性。
あまりの卑猥な光景に目を閉じて視界を塞ごうとするが、欲望と好奇心に負け時折まぶたを開けてしまう。
それほど柚花の身体は……


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