***

「始めは鈴沢くんからですか?」

五十嵐くんの手に導かれた柚花の先には鈴沢くんが待ち受けていた。
元々こんな状況になってしまったのは彼のせい。
鈴沢くんが柚花が楠木葵に似ていると言い出した流れから、何故か愛する人が他の男性と一緒に温泉に入ることになってしまった。

「よ、よろしくお願いします」

「エヘヘ、こちらこそ♪」

鈴沢くんに対してはお姉さんの余裕を見せる柚花だったが、全裸の男性と正面から向き合う恥ずかしさからか浮かべた笑みにぎこちなさが残る。
一方の鈴沢くんはというと、緊張度は柚花よりも明らかに勝り全身がぎこちなさの塊のようになっていた。
ただ……唯一下腹部だけを除いて。
そこだけは別の意味で見事な堅さを誇っていた。
反るように上を向く陰茎は柚花を前にしても遠慮をすること無く──いや、雄の強さを誇示するかのように正にいきり立っていた。

全裸の柚花がエスコートする男の手から他の男の手へと渡される。
扱いこそまるでお姫様のように丁寧だが、今の柚花の存在意義は男達の欲望の捌け口として使われるだけ。
媚薬で蕩け切った昂る身体を私以外の男達が楽しむ為の「物」でしかなかった。

儚げな背中を向けていた柚花がチラリと私に視線を向けた。
やや眉が下がり心なしか潤む瞳に宿るのは不安なのか恐怖なのか、それとも……期待なのだろうか?

あまりにも無防備過ぎる全裸の身体。
しかもその身体は媚薬の効果により子宮の奥から疼きを訴えている。
そしてこの後、その身体のまま見知らぬ男性と温泉を共にする。
二人で入るのがやっとの大きさの湯船。
そこに入る男性の陰茎は凶器のように堅さを誇示し、一方の女性は蕩ける程に秘部を潤わせている。
狭い湯船に二人で浸かるには当然互いの体を密着させなければならず事故が起きても不思議ではない。

媚薬に犯された柚花の精神。
もし湯船の中で事故──二人が繋がってしまったとして柚花は拒否出来るのだろうか?
欲情に溺れた柚花は止められる事を懸念し、私に黙ったまま膣の奥深くへ雄の象徴である陰茎を生のまま受け入れてしまう可能性だって否定できない。
そして、もしそんなことになったとしても私は柚花を責めることは出来ない。
怒るくらいなら今すぐ柚花を連れてこの場を立ち去れば良いだけなのだから。


岩の向こうに柚花が消え、溢れる妄想にパニックをお越しかけていると知らぬうちに五十嵐くんが隣に立っていた。
驚く私に向けて立てた人差し指を唇に当てたまま悪戯な笑顔を見せる五十嵐くん。
その五十嵐くんは固まる私の腕を掴み歩き出した。

思考が焼き切れた私は腕を引っ張る五十嵐くんに逆らう事なく後をついていく。
といっても移動したのは数メートルほど。
柚花が消えた大きな岩に沿って時計回りに少し歩くと、岩と温泉の周りを囲う竹の塀との間に人が屈んで通れる程の隙間があった。

立ち止まった五十嵐くんがその隙間に向けて手を差し出している。
私に中へ入れというように。
先ほど柚花と別れた場所からはこの隙間は見えなかった。
そして古くから培われたこの温泉の特殊な文化。
この隙間の目的は考えるまでも無く明らかであり、その先で待ち受けてるであろう光景に私の精神は悲鳴をあげる。

岩の向こうに消えた柚花は今どうなっているのか?
鈴沢くんと「事故」が起きているのでは?

薄暗く先の良く見えない隙間の中に入ればそれがわかるはず。
この中は私のような男のために用意された空間なのだから。

まるでこの場所を教えることが目的だったかのように無言のまま五十嵐くんが立ち去ってしまう。
温泉の隅に残されたのは私ひとり。
隙間を潜った向こうの世界が容易に想像出来てしまい恐怖が私の体を乗っ取ってしまう。

たぶん時間にしたらほんの数秒。
それでも私の精神は恐怖と欲望の狭間でもがき苦しみ、混沌とした世界を決意を持てぬままさ迷い続けていた。


「きゃっ♪」

(あっ! えっ!!)

耳に届いた柚花の悲鳴に体が勝手に反応し意識が無の状態で隙間の中へと潜り込んだ。
先ほどの混沌とした世界から今度は混乱が渦巻く世界へと意識が強制的に飛ばされる。
隙間の入り口もそして中の足元も薄く闇に包まれた空間。
そして視界の半分以上が竹の塀だとわかる程度の薄明かり。
それなのに、この空間に入って一番先に目に飛び込んで来たのは柚花の姿だった。
覗き部屋だと思っていた空間の中からは想像よりもハッキリと柚花のいる外の世界を見ることが出来た。

漏れ出てしまいそうな声を何とか飲み込みパニックを起こしていた精神を落ち着かせる。
悲鳴をあげた柚花も何かに驚いただけだったのか、恥ずかしそうに腕で身体を隠し鈴沢くんと笑い合っている。

この隙間の中は意図的に作られた空間だけあって完璧な覗き部屋となっていた。
月とランプの明かりに包まれた外の世界。
明の世界とこの暗闇とを隔てるのは何本も並ぶ縦に割られた竹。
一見、隙間無く並べられてはいる竹の塀は光の明暗を利用し一方からのみ向こう側が見えるように計算された隙間が作られていた。

本当に見えていないか始めは疑心暗鬼だったが、一向に気付く気配を見せない柚花に私の精神は少しずつ余裕を取り戻していく。
それにしてもこんなスペースまで作るとは。
隙間は人ひとりが丁度入れる程度。
その狭い場所だけ竹の塀が前と後ろの二重になっており、私はその間に挟まれる様に入り込んでいた。
思いのほか二人との距離も近く会話どころか興奮の息遣いさえも聞こえそう。
竹の隙間も顔を近付ければ視界は十分に広がり羞恥に染まる柚花の表情もハッキリと見ることが出来る。
あまり顔を近付けると向こう側から見えてしまうのではとも思ったが、元々狭いこの隙間は意図しなくとも塀に顔を近付けれる事になるため音さえ出さなければ完璧な覗き部屋となっていた。


共に恥じらいを見せる全裸の男女が一組。
互いの体を意識するものの戸惑う視線は空をさ迷っている。
とは言えいつまでもこのままで良い訳もなく、男でありこの場を経験している鈴沢くんが滞る時を動かし始めた。

「見ての通り狭い温泉ですけど、どうしましょうか?」

「ハハハ……どうしようね?」

見知らぬ男性を前に全裸の柚花は振られた質問に渇いた笑みしか返せない。
困る柚花にさすがの鈴沢くんも自分がリードしなければと覚悟を決めたのか先に湯船へ足を踏み入れるとエスコートする様に柚花へ手を差し出した。

「それでは私が先に入るので柚花さんは私の膝の上に座ってもらえますか?」

「う~と、私が後ろから抱っこしてもらう感じかな?」

「そうですね。柚花さんが嫌じゃなければですけど」

「大丈夫だよ。嫌じゃ……ないから」

“嫌じゃないから”
その言葉が私の精神を抉るように傷付ける。
柚花としては鈴沢くんを気遣う言葉。
どう見ても身体を重ねないと二人の大人には狭い湯船なのだから入り方も限られる。
体の大きな鈴沢くんが柚花の上に重なる訳にはいかないのだから柚花が抱っこされる形しかない。
あとは柚花が前を向くのかそれとも後ろを向くのかを選択するだけ。

それでも柚花が放った肯定の言葉は裸で身体を重ねる事への嫌悪を否定する意思であり、それが私ではなく他の男に対して向けられた現実はわかっていてもダメージが大き過ぎる。
私だけの柚花が。
私しか知らない柚花の身体が。
確実に欲望の果てへと近付いていく。

「それじゃ、失礼して…………ん~痛くないかな? 重くないかな?」

「だ、大丈夫ですよ」

明らかに鈴沢くんの言葉が詰まった。
柚花としとも自然の行動。
そこに小悪魔のイタズラは全くない。
だが、その分だけ「素」の破壊力は大きくなる。

先に湯船へ入り足を伸ばして座る鈴沢くん。
後に入る柚花は彼の太もも辺りに腰を下ろし抱っこさせるように鈴沢くんに背中を預けるだけ。
それなのに未だ緊張の消えない柚花は自分の状況に気付く事なく別の事へと意識が向いてしまった。
それも女性なら仕方のない事かも知れないがだからと言ってこのタイミングとは。

座る鈴沢くんに続いて湯船へ足を入れる柚花。
湯船はそれほど深くはないので立ったままの柚花が浸かるのは精々ふとももの辺りまで。
それなのに柚花は止まってしまう。
鈴沢くんに抱っこされようと彼の足を跨ぎ彼に背中を向けた状態で。

恥ずかしさから鈴沢くんの目を見れず前を向いたまま質問を投げた柚花。
だから自分の状況に気付けない。
そして鈴沢くんの驚愕と欲望に満ちた視線にも。

彼の刺さるような視線の先──いや、先と言うよりも目の前、至近距離。
そこにあるのは柚花のお尻。
キュッと上を向きながらも、ほどよく丸みを帯び少し幼さを感じさせる背徳的なお尻が息のかかる程の近さでお湯を滴らせていた。

(これは…………)

二人が入る湯船の形はは楕円と言うか角の無い長方形。
私はそこに入る二人を横から覗き見ている。
男性平均よりもやや高い背の鈴沢くんと女性平均よりもたぶん低い柚花。
私からは座る彼の視線の高さと立つ柚花のお尻の高さは丁度同じように見えている。
でも鈴沢くんからはどうなのだろうか?
抱っこされるために鈴沢くんの足を跨いでいる柚花は肩幅程度に足を開いている。
その微かに開く空間を少しでも下から見上げることになればそこに見えるのは……

「それでは座りますよ♪
痛かったり重かったら教えてね」

ゆっくりと柚花の身体が湯船の中へと沈んでいく。
太ももの上に座るとは言っていたがお尻をつくすぐ側にはいきり起つ鈴沢くんの陰茎が待ち構えている。
彼の事だから柚花を裏切るような心配は無いが、だからと言って見知らぬ男女が裸で行う事ではない。
そうとわかっていても柚花が止まることはなかった。
媚薬の効果は過度なスキンシップも許容してしまう。

「ふ~。ホントに重くない?」

「はい。大丈夫ですよ。
それよりもっと私に寄り掛かって下さい。その体勢は厳しいですよね?」

「ありがとー。
それなら遠慮なく……こうかな?」

「あっ!「あっ!」」

鈴沢くんの何気無い心遣いとそれに答える柚花の気遣い。
たぶん二人に邪な意図は無かったのだろう。
だが結果として二人の声が重なった。
私からは原因となるような事は見えていないが、見えない湯船の中で何かが起きている。

「こ、これはその……痛いよ…………ね?」

「いや、そんな事は全然無いですけど、ちょっと苦しいと言うか何と言うか……」

「キャッ!」

「ごめんなさいっ!! 押さえ付けられているからつい」

「大丈夫。びっくりしただけだから。
でもこのままじゃ辛いよね」

「まぁ……でも本当に大丈夫ですよ。我慢できる範囲なので」

「そうもいかないよ」

どうやら柚花が鈴沢くんに寄り掛かかる事で固く上を向いていた陰茎を背中で押し潰しているようだった。
本来であれば背中に感じる陰茎に女性としての焦りを見せても良いところだが、真面目な柚花が見せるのは同じ焦りでも鈴沢くんに対してのもの。
自分に無いものを押し潰される感覚がわからなく必要以上に心配をしている。
そんな柚花を見ているからか私も今の状況に嫉妬を覚える事は無く寧ろ微笑ましさすら感じていた。

でもそれは一時の安らぎに過ぎない。
天使の様に柚花が優しさで満ちている時、その足元には自爆へと導く地雷が敷き詰められているのだから。

「待ってね。座る場所を変えれば少しは楽になるかも」

「あ、このままでも俺は……えっ…………」

座る位置を変えようと柚花がその場で立ち上がる。
再び鈴沢くんの目の前には透き通るような肌に包まれた可愛らしい桃尻。
周りが何も自爆を促していないのに柚花は自ら次の地雷へ足を置いてしまう。

「んと。あの……鈴沢くんの……その…………向きというか……ねっ……だから……これがこっちに向いてると背中で潰しちゃうからさ」

「えっ、いや、あの……」

「私がもっと上の方というか……潰さないように座れれば大丈夫かな?って。
だからもう少し深く沈むというか浅く座るというか、腰をズラしてもらえると。
その……鈴沢くんの太もも側じゃなくて腰側に座れば潰れないでしょ?」

「それはそうなんですが、それよりも」

柚花としては鈴沢くんに苦しい思いをさせたくはない。
それに背中に感じる生々しい男の剛根に媚薬漬けの身体が反応してしまわないか恐れを抱いているのかもしれない。
だから柚花なりに状況を変えようとしているのだろう。
でもその変えようとする方法が……

柚花的には鈴沢くんの陰茎がお腹の方へ倒れてしまうのが問題と思っているようだった。
そして、そうであれば陰茎が反対側へ倒れれば苦しくないのではと。
その為には座る位置をもっと上、鈴沢くんの太ももではなく下腹部辺りにお尻を落とさなければならない。
しかも先ほど見た通り鈴沢くんの陰茎は立った状態でもお腹に付きそうなほど上を向いている。
その彼のものを先ほどと反対側──下向きになるように座るとなるとかなり困難になってしまう。
だから柚花は鈴沢くんにもっと浅く座るようお願いをしていた。
鈴沢くんの下腹部が少しでも水平になれば陰茎の上側へ座れるのではないかと。
それを伝えようにも鈴沢くんの陰茎を言葉として出すわけにもいかず、まして触る訳にも当然いかないため辿々しい言葉で自分の考えを伝えようとする柚花。
だが、柚花は気付いていない。
たとえ柚花の思うように座れたとしても問題が残る事を。

まず鈴沢くんが浅く座ったとしても陰茎を反対側へ倒して柚花が座ることはかなり難しいと思われた。
何より立っている時でさえ上を向く鈴沢くんの陰茎は浅く座ることでますますお腹の方へ倒れてしまう。
それを反対側へ倒すに何らかの意図的な力が必要になるが、柚花がそれをするには見知らぬ男性の陰茎を「握る」という行為が必要になる。
それにもし「握る」という手での直接的な行為を躊躇い腰を使って向きを変えようとするなら更に危ない。
何故ならお腹に倒れる陰茎を反対側へ倒すには下から持ち上げなければならない。
手を遣わずにそれをするには下腹部を突き出すようにしながら陰茎とお腹の間に差し入れる事になる。
しかし下腹部を突き出す方向には堅くいきり起った陰茎の先が待ち受けている。
そして柚花の下腹部も媚薬とディルドの効果ですっかりほぐれ、ぬめる粘液は滴るほどに涌き出ている。

そんな危険な状況を回避するには鈴沢くんが自らの手で陰茎を持ち上げてくれれば良いのだが、肝心の彼はそれどころでは無い程のパニックに襲われている真っ最中。
柚花の踏んだ地雷の余波を受け言葉すら失い我を忘れている。

でもそれも仕方がないこと。
鈴沢くんは柚花の言う通り浅く座っただけなのだから。
結果として視線が下がってしまうのは彼のせいでは無い。
まして何とかうまく座ろうと柚花が下を覗き込んでしまうため、プリリとした可愛いお尻が突き出された事に至っては鈴沢くんを責める事はなど出来はしない。

一体彼には何が見えているのか?
それは固まる彼の体と、それでいてそこだけはギラつく本能を隠せない視線が全てを物語っていた。
もうここまで来たら見られるのは仕方がないこと。
しかしそれは無毛の1本スジなのだろうか?
それとも媚薬とディルドの余韻を残したまま息付いている艶かしい秘肉なのだろうか?
横からの視界となる私からは鈴沢くんと同じ光景を見ることが出来ない。
私は柚花の彼氏であり婚約者でもあるのに、彼女の恥態が晒されている状況で塀に隠れて覗き見る事しか出来なかった。

「あの~。出来れば、その……ねっ」

「あっ! はい? えっと……あ、わかりました」

お腹の方へ倒れたままの陰茎を前に、困り果てた柚花が鈴沢くんに助けを求める。
目の前の一点に意識が集中していた鈴沢くんだったが、掛けられた柚花の声に我を取り戻すと状況から柚花の意図を察し羞恥で火照る柚花の身体には触れないようにしながら自らの陰茎へと手を伸ばした。


「でも何で知ってるんですか?」

「最近は女性誌でも特集とかインタビュー記事とかが載ってるから。
もちろん女性誌視点での記事だよ」

「なるほど。普通にメディアへの露出も増えてますからね」

「うん。SNSとかも女性の人気が高いみたいだし」

楽しそうに会話を弾ませる二人。
楠木葵の話で盛り上がっている。
その二人は少し前のバタバタが嘘のように落ち着いていた。
足を伸ばして座る鈴沢くんとその上に重なる柚花。
互いに仰向けのため、柚花はバランスを取るためにやや開いた足を床についているが、それも含めて私の心を揺さぶるような事態にはなっていない。
柚花の身体を押さえる様に回された鈴沢くんの両手は、柚花のお腹の上で重なっているが見せてはならない胸は柚花の腕で隠され下の恥丘は揺らめく水面が薄いモザイクとなっていた。


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